今回は以前紹介した「テレビで話題の美肌菌を自力で増やすための培養方法」について紹介したいと思います。
前回は美肌菌による美肌効果の原理を分子生物学レベルで説明しましたが、今回はその美肌に効果的である美肌菌の自力での増やし方について紹介したいと思います。
前回も美肌菌を増やすための方法を紹介したのですが、前回は「食べ物や洗顔方法を変えることで美肌菌の減少を抑え、本来の量まで戻す」という増やし方の紹介でした。
前回記事は以下です。美肌菌の効果とその原理、すぐに実施できる美肌菌の増やし方について記載しています。
今回は「肌上での自然な増やし方」ではなく、実際に実験的に培養することで大幅に増やす方法を紹介します。かなり専門的な話になってますので、興味がある方はご覧ください。
本来なら研究員にわざわざアポイントを取って聞かなければならないような専門的な手法をここで紹介します。
“有名化粧品会社とかってこうやって化粧品とか作ったりしてるんだ…”程度の軽い気持ちで読んでみてください。
今回の記事はこんな方にオススメ
・美肌菌の美容効果を試してみたい
・美肌菌を自力で増やしてみたい
・菌が増える過程を知りたい
目次
1. そもそも美肌菌の培養ってなに?
まず、美肌菌の培養とは何でしょうか。また、美肌菌を培養することでどのようなメリットがあるのでしょうか。
以下はテレビで紹介されていた「美肌菌を培養した時のメリット」と、「美肌菌を扱っている会社の美肌菌培養サービス」の詳細です。テレビの内容を引用する形で紹介します。
人にはそれぞれの肌の環境に適した独自の美肌菌が存在しています。その美肌菌の種類は、人によってそれぞれ異なっています。
そのため、美肌菌を培養するときは、オーダーメイドでその人独自の美肌菌を培養する必要があります。
そして、その人独自の美肌菌を培養して、大幅に増やしたのち、その増やした美肌菌をフリーズドライ(凍結乾燥)して粉末状にします。
この美肌菌の粉末は、その人の肌だけにマッチした特別製の美肌菌です。この美肌菌粉末を化粧水に溶かして塗布することで、美肌菌効果を受けることができるのです。
この美肌菌粉末のケアにより、なんと肌の水分量・保湿量が大幅に上昇したそうです。美肌菌効果はすごいですね。
ただ、一人ひとりに対してオーダーメイドで培養して作るため、美肌菌粉末半年分で36万円もするそうです。
たしかに各個人の美肌菌をそれぞれ分けて培養しないといけないので、手間は計り知れませんね。
このように、美肌菌粉末は非常に効果的なのですが、なんといっても半年で36万円という価格が非常に高い…。
そこで今回は、自分で培養してみようという方向けに、培養に関する知識と培養方法を紹介しようと思います。
2. 菌の培養方法と培養フロー
菌を培養するためには、培養のための準備と実験フローがあります。
「難培養細菌(培養が非常に難しい細菌)」と、「嫌気性細菌(酸素がないところで生育している細菌)」以外は基本的に似たような培養フローを辿ります。
以下は、一般的な「好気性細菌(酸素があるところで生育している細菌)」の培養フローです。
【手順1】
①シャーレ(プラスチック皿)に寒天粉末と培養したい細菌の栄養素を加え、寒天培地を作成
※(1) この際に、目的の細菌以外は生育できないような培地を作成する必要がある
※(2) シャーレでなくとも、入れ物なら何でも可。ただしフタのできるものを選ぶこと。また、その際に少しは空気が入るようにすること(好気性細菌は酸素が必要なため)。そして、使用する入れ物とフタはあらかじめ煮沸滅菌しておく必要がある
【手順2】
②目的の細菌をつまようじや綿棒等で取ってきて、作成した寒天培地に塗布(今回の場合だと、自分の肌をこれらで優しく掻き取る)
※(1) 鉛筆で絵に色を塗る時のように全体をなぞるように塗布
※(2) つまようじや綿棒もあらかじめ煮沸や電子レンジ等で滅菌しておく必要あり
【手順3】
③シャーレにフタをして、目的の細菌の生育に最適な温度の装置内(インキュベーター)で2日程静置(自宅でやりたい場合はぬるま湯などにシャーレの下の方だけ浸すとよい)
※(1) 静置日数は目的細菌の増えやすさに応じて変える必要あり(大抵1〜3日)
※(2) 大体の細菌は30℃~37℃の間が生育最適温度
【手順4】
④シャーレ内の寒天上にコロニーと言われる、細菌が多く存在している塊が複数個できるので、そのうちのシングルコロニーをつまようじやピペット、あるいは何か細長いもので掻きとる
※このつまようじやピペット、何か細長いものは滅菌済みのものを用いる(煮沸滅菌や電子レンジ等)
【手順5】
⑤試験官(入れ物なら何でも可)内に、先ほどの寒天培地と同じ成分の培地を液体状で作る(液体培地)
※(1) 先ほどは寒天粉末を加えたため培地が固まった(寒天培地)が、今回は寒天粉末を入れないので液体(液体培地)のままである
※(2) 試験官(何かの入れ物)は煮沸や電子レンジ等で滅菌したものを使用する
【手順6】
⑥先ほど掻きとったコロニーをつまようじ等で液体培地に入れる
※つまようじ等は滅菌済みのものを用いる
【手順7】
⑦コロニーが入った液体培地の試験官(何かの入れ物)にフタをして、1~2日間ぶんぶん振る(人力では腕がしんどい為、以下の例の方法などがよいかも…)
※(1) この時、試験官が密封された状態にせず、少しでもどこかの隙間から酸素が入ってくるようにすること
※(2) 中身がこぼれないように、かつ酸素が試験管内に少し入るように、かつ大気中の菌が入らないようにフタをして振らなければならないので、非常に難易度が高いが不可能ではない
例)
・ミシンの先などにセロハンテープで試験管をくっつけて起動→自動で振ってくれる
・メトロノームの針に試験官をセロハンテープでつけて起動→自動で振ってくれる
【手順8】
⑧1日ほど振った試験官内の液体培地には、増殖した目的細菌が存在しているため、そのまま半日ほど静置することで細菌を沈殿させる
※試験官の底に細菌を溜めることが目的なので、遠心分離機があれば最適だが、そんなものは研究機関にしかないので、静置がオススメ
【提案】
要するに試験官の底に細菌が集まるようにすればいいので、ハンドミキサーのような回転するものに試験官をセロハンテープなどでくっつけて回せば、細菌の細胞に遠心力がかかって底に沈んでくれる
やるかどうかはキミシダイ…
【手順9】
⑨目的細菌が底にある程度溜まったら、上澄みの液体を除去して、試験管内にはできるだけ目的細菌だけ残るようにする
【手順10】
⑩粉末状の目的細菌を獲得したいのなら、ここで試験管内の目的細菌を凍結乾燥(フリーズドライ)するべきだが、凍結乾燥は専用の装置がないと不可能なので、このまま目的細菌を粉末状にせずに用いる
(粉末状にするとある程度保存が効くのだが、そのまま用いるとなると2日ほど放っておくと細菌は死ぬので、2日以内に使い切らないといけない)
※(1) この時、目的の細菌には液体培地が付着しているので洗う必要がある。しかし、ただの水で洗うと浸透圧で細菌が死んでしまうので、生理食塩水で洗う
(正確な濃度でなくとも、パスタに塩入れるくらいの感覚で入れてあげる程度で大丈夫)
※(2) 生理食塩水のままでは肌につけたくないので、生理食塩水で洗った後の細菌を今度は使っている化粧水で洗い、それを用いる
≪細菌の洗い方≫
①液体培地を試験官ごと静置
②試験官の底に細菌が沈殿
③上澄みの液体培地を試験官から除去
④細菌が沈殿している試験官に生理食塩水を入れる
⑤試験官をぶんぶん振る
⑥再び試験官を静置
⑦細菌が試験管の底に沈殿
⑧上澄みの生理食塩水を試験官から除去
⑨(④~⑧を3回ほど繰り返す)
⑩最後に化粧水を用いて生理食塩水と同様のことを2~3回繰り返す
☞美肌菌入り化粧水完成
3. 美肌菌の培養条件
ここまでで細菌の培養の仕方を紹介してきたので、おそらくここまで読んでくださっている方はほとんど残っていないと思いますが、美肌菌の培養条件を紹介したいと思います。以下が美肌菌の培養条件です。
表皮ブドウ球菌(美肌菌)と黄色ブドウ球菌(肌悪玉菌)はマンニット食塩培地という培地で生育します。この培地は食塩濃度が非常に高いため、通常の細菌は生育できません。
一方、黄色ブドウ球菌と表皮ブドウ球菌は食塩耐性が高いため、生育することができます。以下がマンニット食塩寒天培地の組成です。
肉エキス | 1.0g |
---|---|
カゼイン−スイ消化ペプトン | 5.0g |
動物組織−ペプシン消化ペプトン | 5.0g |
塩化ナトリウム | 75.0g |
D-マンニトール | 10.0g |
フェノールレッド | 25.0mg |
寒天 | 15.0g |
pH 7.4±0.2
煮沸水(煮沸後常温まで冷ましたもの):1L |
今回の場合フェノールレッドは特に必要ありません。他の成分はできれば必要なのですが、恐らくなかなか手に入らないと思います。
そのため、自分の皮膚などをポリポリして集めて、水と食塩、そしてもし買えるのであればマンニトールと共にミキサーなどにかけることでも培地の代用ができます。
菌というのは、粉々に砕いた食べ物と水と食塩さえあれば割とどこでも生育できます。そのため、最悪の場合上記の方法でも恐らく生えてきます。
その際に、食塩の濃度は7.5%にしてください。7.5%というのは、食塩7.5gに対して水100ml、食塩0.75gに対して水10mlということです。
上の成分表で書いているペプトンや肉エキスはタンパク質の分解物を表しているので、最悪の場合口の中で噛み噛みしたタンパク質をベッと吐き出して、培地に混ぜることでも代用できます。
先程、マンニット食塩培地は表皮ブドウ球菌(美肌菌)だけでなく、黄色ブドウ球菌も生育してしまうと書きました。
実は表皮ブドウ球菌と黄色ブドウ球菌は見分けることができます。
表皮ブドウ球菌はマンニトールという糖を分解できません。そのため、黄色ブドウ球菌に比べてあまり増殖できず、コロニーが小さい傾向があります。
また、黄色ブドウ球菌は黄色、表皮ブドウ球菌は白色のコロニーを形成するため、コロニーが小さくて白色のものを取って来れば、それが表皮ブドウ球菌です。
表皮ブドウ球菌(美肌菌)の培養の条件は、30℃〜35℃で200rpmという、ありえないほど早く振らないといけない条件が、表皮ブドウ球菌の最適培養条件です。
ただ、これは最適な培養条件であり、この方法で振ると、考えられないほど爆発的に増えるという条件です。
今回はそんな増やしたところで意味はないので、手でブンブンする程度でも、肌に塗って効果がある分くらいは増えます。
ここまでで自分の美肌菌を自力で培養して増やす方法を紹介してきましたが、実際のところ培養して表皮ブドウ球菌(美肌菌)を大幅に増やし、自分の肌に塗りなおすという行動は、専用の装置がなければ割と困難です。
なので、もし表皮ブドウ球菌を外部から塗るケアをしたいという方がいれば、できれば専門家に注文することをオススメします。